夜、濃紺の時間が長くなった。 あなたと歩く帰り道、小さな公園を見つける。 「少しだけ寄り道しようか。」 ベンチに2人、決して触れることのない距離で腰かける。 外はもう寒い。もうすぐ息が白くなる。 こぼれ落ちそうな月を見上げて思った。 もう二度と発することのない好きという言葉を なんとか伝えられないかと。 「月が綺麗ですね。」 あなたは月を見上げながら 「今日死んでしまってもいいくらいに綺麗な月だ。」 そう言った。 もう何もいらないのかもしれない。 ベンチに置いた手に触れられなくても。 抱きしめ合う未来がなくても。 忘れられない大切な思い出を与えてもらえたのだから。
