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サヨナラ

サヨナラ

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何度夢にまで見ただろう。

何度願ったことだろう。

会いたかった人が今目の前にいる。

夏の終わりの風が吹いた。

夏の終わりの風は心地よいものだったはずなのに、心をざわつかせるような気持ちになった。

ずっと会いたかった。

ずっと顔を見たかった。

ずっと声を聞きたかった。

でも今の私の心がざわついているのには理由がある。

「終わりにしよう。サヨナラだけしにきた。」

彼は白地に赤いラインの入ったバイクを傍らに、ヘルメットを持ちながらそう言った。

そんなことで顔を見ることになるなんて考えてなかった。

彼が目の前にいるという夢にまで見た状況は、悪夢のように変わってしまったのだ。

「そんなこと言うために会いに来ないでよ。」

好きな人が目の前にいることが嬉しいのに、好きな人がつむぎ出す言葉は残酷で、私は振り絞るような声を出した。

彼がサヨナラを言うためだけに会いに来た。

なぜ夏の終わりが切ないのか。

今の状況が切ないだけなのか。

すべては夏の終わりのせいなのか。

なぜかそんな余計なことを考える。

彼は私の振り絞るような声を聞いて悲しそうに笑った。

「君には僕の存在が重荷になってしまうから。」

そう言ってまた、彼は夏の終わりの夜にふわりと笑う。

「またそういうこと、一人で考えて決めるでしょ。」

どうも昔から、別れ話の時は責めるような言い方になってしまう。

かっこいい女になんてなれない。

いつだって私は卑屈だった。

「お互いのためだよ。」

彼はいつも一人で考えては結論を出した。

私はそれを待っていることが多かったように思う。

「わかった。今までありがとう。サヨナラ。」

また風が吹く。傷ついたばかりの心に痛みが走るような風。

彼は悲しそうに笑って身支度をした。

いつもの駐車場。

向かって左から4番目、いつも彼が車やバイクを停める場所。

帰る時はいつも私の姿が見えなくなるまで笑顔で手を振ってくれる。

だけど今日は…。

やっぱり彼は一度も振り返らずに帰って行った。

空を見上げてため息をついた。

じんわりと涙は出たけど、まだ実感がない。

おそらく、家に帰って寝る時間になったら涙が溢れてくるんだろう。

泣き疲れて眠れば、また明日という新しい一日がやってくる。

きっと私はぼんやりと彼の背中を思い出す。

失恋の傷というものは、きっと簡単には治らない。

彼とは今生では交わらない人生だったのだろう。

そんな達観している訳でもないけれど、交わらなかった赤い糸は、これから先誰かと繋がるのだろうか。

今の私にはわかりっこない。